1 華麗なる舞曲/舟歌                         A.タンスマン
 2 フランセーズ                             J.イベール
 3 2つのエチュード                           A.ジョリヴェ
 4 グランソソナタ イ長調                        N.パガニーニ
 5 即興曲Op90-2                             F.シューベルト
 6 6つの小品                              A.シェーンベルク
 7 子供の情景からの5曲                        R.シューマン
     見知らぬ国々、鬼ごっこ、トロイメライ、こどもは眠りに、詩人のお話
 8 ノクターン                               F.ショパン
 9 ワルツ
10 華麗なる大円舞曲


曲目解説                                     高橋 望

  前半に演奏されるのは、その創作活動の一部として、「ギターの曲も書いた」作曲家たちの作品
である。それぞれの代表作ではないかも知れないが、一流作曲家の筆遊びがギターのために高質
で豊かなレパートリーをもたらしたことは間違いなく、ここにそれが並べて演奏されることは興味深
い。

華麗なる舞曲、舟歌 アレクサンドル・タンスマン(1897−1986 ポーランド→フランス)
  タンスマンは広範な分野に作品を残しているが、現在の処もっとも演奏機会が多いのは、数編の
組曲や、小協奏曲を含むギター曲の数々かも知れない。<華麗なる舞曲><舟歌>はギターの
ための組曲≪カヴァティーナ≫からのもの。優雅なフランス風の洗練と共に、愁いを含んだポーランド
の響き、そしてどことなく古風な味わいを感じさせる。

フランセーズ ジャック・イベール(1890−1962 フランス)
 交響組曲<寄港地>や管楽器を中心とする室内楽、劇、映画音楽などで知られるフランスの作曲
家イベール。フルートとギターのための<間奏曲>はこの構成の定番としてしばしば演奏される。
<フランセーズ>はイベールの最初のギター作品で、軽快な律動とエレガントなムードが如何にも
タイトルの”フランス女性”に相応しい。

2つのエチュード アンドレ・ジョリヴェ(1906−1974 フランス)
 同じ20世紀の作曲家ながら、ジョリヴェは上記同国の作曲家たち、また後述のシェーンベルクとも
全く異なる作風を持っている。その意図するところは”音楽が本来持っていた呪術的力への回帰を求
める”というもので、独創的な和声、東洋的な旋律、打楽器の重要な扱いなどを特徴としている。
<前奏曲のように><踊りのように>と題された<2つのエチュード>の瞑想的な雰囲気、熱狂する
激しさにもそれは十分に感じられるだろう。

グランドソナタ イ長調 ニコロ・パガニーニ(1782−1840 イタリア)
 超人的な技巧を誇ったこの19世紀のヴァイオリニストは、ギターの演奏にも通じていたとされるがギ
タリストとしては活動していない。超絶的なヴァイオリン曲に対し、ギター作品はヴァイオリンの単純な
伴奏ないし平易な独奏曲が殆どで、その天才がギター曲創作に及ぶことはなかった。唯一の例外は
3楽章からなるこの<グランドソナタ>で、若干オリジナルに手が加えられているものの、アルペジョな
どのギター的なテクニックと、ヴァイオリンのような旋律を歌い上げる性格をともに有している点が個性
となっている。

即興曲 フランツ・シューベルト(1797−1828 オーストリア)
 シューベツトが傍らに置きつま弾いたとされるギターだか、、残念ながらこの大作曲家の手からコン
サート用のギター作品が生み出されるということはなかった。ピアノのための4つの<即興曲>op90
は、自由な発想と叙情性を重視したロマン派ピアノ音楽の特徴ともいえる<正確的小品>の先駆けと
なった作品。ドラマチックな中間部の前後を流麗な3連符が支配する。op90-2がギターの弦上に響く
のはおそらく本日が初めてと思われる。

6つの小品 アルノルト・シェーンベルク(1874−1951 オーストリア)
 無調音楽、12音音楽の創始者として現代音楽の成立に大きな影響を及ぼしたシェーンベルクは
1923年、バリトンと7つの楽器のための<セレナード op.24>にギターを使用し、以後、無調的な作曲
を手掛けた<現代音楽の大家>たちがこの楽器に関心を寄せるところとなっていく。ピアノのための
<6つの小品>は各曲9〜17小節足らずという極度に切り詰められた簡潔さに着目して、ドイツ生ま
れのギタリスト、ベーレントがギターに編曲したものである。近代のギターの復興には、スペインの
タレガらの功績も考えられる訳だが、ベーレントは”この楽器を最初に復活させたのはシェーンベルク”
と言って憚らない。そんなシェーンベルクに対する敬意もこの編曲の動機なのだろう。

2つの間奏曲 ヨハネス・ブラームス(1883−1897 ドイツ)
 その重厚な作風を繊細な音色のギターにのせるのが難しいため、このドイツロマン派の巨匠は一般
によく知られたクラシックの作曲家の中では、もっともギターのソロ演奏に縁遠い存在の一人かもしれ
ない。しかし、ブラームスのもつ音の深さと高い精神性は、これまでのギタリストがあまり顧みなかった
部分でもあり、ここに取り上げられることは喜ばしい。op.76およびop.117からの<2つの間奏曲>は、
ブラームスが<ソナタ><変奏曲>といった形式的なピアノ曲からの転換を図った作品で、落ち着い
た響きと内省的な美しさはギターでの再現を試みるに相応しい。

子供の情景OP90より ロベルト・シューマン(1810-1856 ドイツ)
 無邪気な子供の描写でなく、”大人のための夢と憧れ”を描いたともいわれるこの曲集は、シューマン
のピアノ作品全体の中でも芸術性を高く位置づけられている。<見知らぬ国々>彼方から追想と憧れ
を運んでくるような序奏。<鬼ごっこ>めまぐるしい動きの後、ゆっくりした楽節に無類の優しさが込め
られる。<夢・トロイメライ>緩やかに上下する音型は微妙に夢見る世界へ誘う。<こどもは眠りに>
次第に眠りの世界への扉が開かれていく。<詩人のお話>夢の中で遠い思いでを述懐する詩人は
シューマン自身だろうか。これはギターで演奏するには困難な部分もあるが、それでもなおその優しい
響きは、ギターに託さずにはいられないデリケートな魅力に満ちている。

ノクターンop9-2,ワルツop64-2 華麗なる大円舞曲op18
           フレデリック・ショパン(1810-1849 ポーランド)
 よりピアにスティックでありながら、ロマンティックで甘美な音楽が編曲・演奏への意欲を掻き立てるの
だろう、ギターによるショパンの演奏は近年盛んで、シューマン、ブラームスに比べて遥に多い。夜の帳
を静かに流れる<ノクターン>、センティメンタルなパッセージが回遊する<ワルツ>、華やいだ演奏会
の様を描いた<華麗なる大円舞曲>。コンサートの締めくくりとしても華やいだ3曲が演奏される。

 back         topへ