拍子の画像は、メモリー節約のため、省略しました。
プログラム 
1.「私は羊歯になりたい」による変奏曲        F.ソル
   
2. エピターズ                    三善 晃
    
 3.サウダージ第3番                 R.ディアンス
 4.ゴールドベルク変奏曲 BWV988  J.S.バッハ(エトヴェシュ編)
 
 
曲目解説                                        高橋 望

■当夜とりあげられる4人の作曲家と、ギターレパートリーの変遷■

 近親楽器(リュート、ビェラ、バロックギター等)の作品をもレパートリーとして有するギターだが、現在のような形状・調弦となり、多くのギタリストが盛んにこの楽器のレパートリーを作曲・演奏するようになったのは19世紀初頭のこと。幼くして修道院で厳格な音楽教育を受け、バレエ音楽の作曲でも名を馳せたフェルナンド・ソルはその中でも最も優れた作曲家である。以後、ギターのレパートリーはギタリストの作曲家だけで占められていたが、20世紀に入ると、その世界はピアノや管弦楽の創作を本領とする人たちの作曲へと広げられていく。様々な作品が誕生する中、ギターの音色を単にきれいな音だけではなく、現代人の深層に広がる孤独や危機感を表現するに相応しいととらえた三善晃の作品は、20世紀における最もシリアスなギター曲の一つである。そして20世紀の終わり、ギターのレパートリーは再びギタリストの手に帰ってきた。難解さを取り払い、ギタリストの指と大衆の耳に心地よいそれらは、同時に娯楽的であり、深みにかけることも多い。しかし、1955年生まれのローラン・ディアンスの作品は、分りやすさ、華やかさとともに音楽性の高さを備え、後世へと伝えられる可能性を持っている。以上のギターのレパートリーから欠落しているのが、歴史上の大作曲家と呼ばれる人々の音楽である。ギターとの関係を持たなかったこれらの大作曲家の作品に移し替える試みのうち、ギタリストたちが最も力を入れてきたのがヨハン・セバスチャン・バッハである。そして当夜演奏される<ゴールドベルク変奏曲>は、過去ギターで演奏されたバッハの作品中最大規模を持つもので、これが21世紀のギターレパートリーになるのか、当夜石村洋の演奏は大いに注目されるところである。

■私は羊歯になりたいによる変奏曲(F.ソル)
 ソルの変奏曲のうち<魔笛>からテーマを採った作品9、俗謡<マルボローは戦争に行った>の旋律による作品28に次いでよく演奏されるもの。<魔笛><マルボロー>に較べると小規模で、終始悲しみを帯びた曲調、華やいだコーダを持たず。何か結論を言わずに終わってしまうのが特徴だが、それがまたこの曲の可憐さ清純さを一層印象付けている。序奏、主題と4つの変奏からなり、活発な変奏や長調の明るい変奏においても、ひたむきな悲しさをたたえた雰囲気は変わることがない。主題は18世紀末・作者不詳のフランスの歌曲で次のような歌詞を持った恋歌である。「なぜ私はあの羊歯になれないのだろう?美しいひと日の終わりに、私のいとしい鄙(ヒナ)の乙女が雲に見守られながら敷いて憩すらうあの羊歯に…」(濱田滋郎訳 現代ギター136掲載)

■エピターズ(三善晃) 武満徹とともに日本を代表する現代作曲家、三善晃のギター作品は4曲(独奏2、二重奏1、室内楽1)が存在する。この楽器にとって大きな財産でありながら演奏頻度が少ないのは、武満のギター曲が<夢><薄暮><樹木>などのイメージしやすい表題とやわらかい響きを持っているのに対し、三善作品は鋭敏な音色と抽象性に貫かれていること、そしてこの<エピターズ>の委嘱初演者であり三善作品の優れた紹介者だったギタリスト・方志戸幹夫が1986年に48歳の若さで逝去してしまったことも大きい。近年のギター曲は口当たりの良い作品が好まれ、ここに聴くような、人間(=個人)の内面の深層に分け入ってその存在の根源に問いかける音楽は敬遠される。石村洋はこのようなシリアスな作品を毎回プログラムに取り入れ、我々が知っておくべきギターレパートリーを示し続けている。

■サウダージ第3番(R.ディアンス)
 来月11月、来日公演が組まれているチュニジア生まれのギタリスト作曲家、ディアンスの代表作で、近年人気のギター曲の一つ。副題によれば、ブラジル・サルバトール市におけるキリスト像を祝う祭りの情景を表したものという。即興的なパッセージを連ねた<儀式>。軽妙な軽妙なリズムと旋律が流れる<踊り>。美しい饗宴の盛り上がりの後、前章の旋律が懐かしげに回想され、タイトル「サウダージ」の雰囲気を漂わせる。祭りと終曲の3部分からなる。民族音楽やポップ音楽の垣根が曖昧な、近年のギターレパートリーを石村洋は定期のソロリサイタルでほとんど演奏してこなかった。しかしこのディアンスの作品は、派手な演奏効果と室内楽的内容をともに備えた作品として彼の眼にかなったのであろう。今回三善とバッハの間に置かれ、プログラム前半の最後を飾る。

■ゴールドベルク変奏曲 BWV998(J..バッハ)
 カイザーリンク伯爵の不眠を癒すために作曲され、バッハの弟子ゴルトベルクが演奏したと伝えられる、変奏は3つ目ごとにカノンで書かれ、その模倣音程を順次1〜9度と広げていく。第10変奏は10度でな<クォドリベット>という2つの俗謡が同時進行する変奏となっている。変奏技法のすべてを網羅した、2段チェンバロのための大作。ギター独奏版による全曲演奏は本邦初と思われる。
●前半(アリア)/(1〜3(1度カノン)変奏)/(第4〜6(2度カノン)変奏)/(第7〜9(3度カノン)変奏)/(第10〜12(4度カノン)変奏)/(13〜15(5度カノン)変奏)
●後半/(1(序曲)〜18(6度カノン)変奏)/19〜21(7度カノン)変奏)/第22〜24(8度カノン))/第25〜28(9度カノン)変奏奏/(第29〜30(クォドリベット)変奏)/(アリア)

 
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