リサイタルに向けて     2012年

 10月8日
 
 例年のことですが、いつもぎりぎりまで、「弾けなくて、弾けなくて、成すすべなし」みたいな状況が長く続くのですが、今年は「月光」の第3楽章がうまく弾けなくて、どうしようかと大変苦しんでいました。

 ダメでもともとと、先週から、再びメトロノームテンポで「4分音符=60」まで落として何度も何度もしつこく弾いて
さらに、機械式メトロノームの一目盛り単位でなく、デジタルメトロノームで、毎日周波数で一つずつ
60,61,62・・・80,81・・・90,91・・と徐々にテンポを上げて練習してみたみたところ、ようやく調子が出て
きました。この数日毎日なん10回弾いたことでしょう。もう大丈夫だと思います。ただし、他の曲の練習が少ない
のが気がかりですが、何とかします。

  どうかご来場よろしくお願いします。

 第3楽章は、非常に長い曲で、至る所で、全く同じフレーズが出現するので、前後の脈絡をよく理解していない
と曲の進んでいく先がとんでもないところに飛んでいってしまいがちです。古典的なソナタ形式なので、普通の
分析なら容易なのですが、それが単なる机上の分析でなくて、よく身についていなければなりません。

 演奏中、
    「ここは、主題提示部なのだから、第2主題は経過句を経て、属調で弾かれる。その経過句は主調の
     主和音から、いきなり属調の属和音に直行するような代物だ。この経過句を第1主題のリピート
     と勘違いしたらとんでもないことになるぞ・・・・
     
     転回部では第1主題のようなテーマがやがて、下属調の属和音の形をとっていき、第2主題のようなも
     のが下属調でそうされる。
     
     再現部では、経過句なんか置かれずにいきなり、いきなり主調で第2主題が弾かれる。だからもう1度
     第1主題を弾いて…なんてぼやぼやしていてはいけない。

     それにしてもこの曲は、似たような構造がこうも何度も微妙に形を変えて繰り返されるのだろう」

 冗談でなく演奏中そんなことを思いながら弾かないと迷子になってしまうのです。演奏中、曲中のしかるべき
 場所を 「ああこの場所だ」 と思い出さないといけないのです。練習の中には「思い出す」という作業も当然
 含まれていて、曲の進行に従って、今自分が弾いているのはどういう役割を持ったフレーズなのかを思い出さ
 なければならないのです。ぼんやりしていると、曲の大部分を弾かなかったり、終わり近くまで行ったから
 初めの方に戻ってしまうなどの事故が平気で起こってしまいます。

 私にとって 「暗譜」らしい 暗譜 とはこういうことです。
 「暗譜」 ということに関して皆さんは色々な観念をお持ちのことだろうと思います。そうして天才的な記憶力を
 持つ演奏家が 「私は、楽譜をその画像イメージのまま記憶し、自分は頭の中の譜面を読みながら演奏する
 のです」なんていうのを聞いて、それでは 暗譜 なんかできっこないとあきらめた方もいるかと思いますが、
 ご安心ください。 暗譜 は自分流でいいのではないかと思います。ただし勿論、数百回も弾いて指に覚え
 込ませるということは必要ですが、少しは知的努力もしてみてください。

 さて、まだはっきりとは分からないのですが、この曲の結尾部のところがどういう構造になっているのか、
 もやもやしていました。というのはこの結尾部が大変に長くて途中で行方不明になりやすいからです。

 結尾部というのは、拍子が消えてカデンツァみたいになるところぴたりの場所から最後まででいいと思います。
 そうして、結尾部はほぼ主調に置かれた第2主題と同種の音楽らしいということが、おぼろげながら見えてきた
 ところです。

 そうしてここが ややこしいのは、やはり類似の楽節が反復されていることです。
 結尾部は大ざっぱにいえば、次のようです
   第1カデンツァ(やや短め)ーー第2主題
   第2カデンツァ(やや長め)ーー第2主題
  
 結尾部の第2主題は、主調なのだから、再現部と非常に混線しやすいのです。
 運よく、
      再現部から第1カデンツァに向かうための きっかけになるフレーズ、
      結尾部前半から後半に向かうための    きっかけになるフレーズ
 を見つけることができました。あとはこれをしっかりと身に付けるだけです。
 
 9月 Oさんへの手紙
  いろいろお世話になったギタリストのOさんに招待状を送るに当たって手紙を書きました。Oさんはギタリスト
ですが、余技でヴァイオリンも弾く人ですこの春、。二人の関係する団体での音楽祭での演奏を勧めてくれました。それがきっかけで今年のプログラムを決めることができました。


 O 

 ようやく夏が去り秋の到来を感じるこの頃です。
 
  今年のリサイタル、何にするかさんざん迷っていたのですが、春の音楽祭でさんが「スプリングソナタ」と言ってくださったので、この曲が核になって、ほかのプログラムも含めてそれからすぐに決められました。
  曲目が決められただけでなく、ヴァイオリニストの小松さんと、この曲を練習しているときにも、Oさんとの練習が役立っているように思います。
 
  私は、音楽は作品の基本構造を合理的に解釈するだけで、作品本来の姿がおのずから姿を現すだろうということで、今日までやって来たように思います。私が子供のころ、高度成長時代が終わって以来、ずっと個性の重要性が一面的に推奨され、普遍的合理性の立場が危うくなってからも「普遍」ばかりが私の味方と目に映っていたようです。

  また、芸術に関係する事柄を目指すものが「個性」でなく「普遍」というのは、どうも人聞きの悪いことのようではありますが、それが私にはぴったりくるようなので、ある種の確信犯的にそうしてきました。

  ギター弾きとして、ソル、タレガ、アルベニスやロドリーゴに至るまでそれほど作者の個性について意識しなくても譜面ヅラを普通のアナリーゼの手法で解釈すれば、特別にエモーショナルだったり、繊細微妙だったりするところも含めて、それが読み取れ、その通り演奏することで、作曲家の個性的な部分も表出されていると思ってき
ました。

  ところが、ベートーヴェンは、それとはまるで違いますね。多分、通常のアナリーゼ手法は音楽の流れがスムーズで自然になることを目指すものですが、ベートーヴェンには、そんなことの通用しない不条理で不合理なものが山積しているようです。様々な表情記号を見て、興津さんが随所で「これがベートーヴェンだ」というように示してくださり、今も小松さんとの練習で、常にそういうところと出会っています。

  しかも、ベートーヴェンといえば、西洋芸術音楽にとっての中
心的大作曲家で、私たちの文化にとって、いわば普遍性を体現し
た芸術家の一人です。

  元より私は個性的という現象が普遍的といわれる現象の、単なる対立項だとは思っていません。
  恐らく、個人の内省的な感情や感覚を表現する方法をより一層深化させたのが近代の芸術家たちの仕事の大きな部分だったと思います。それは人間という不条理な存在に寄り添っていくやり方でなく、不条理な側面を内包する人間という存在に、心理学者としてではなく、芸術家としてアプローチする理性的な方法の一つだと思います。 様々なジャンルの偉大な芸術家同様、そこにこそ近代人としてのベートーヴェンの真骨頂があると思います。
 

  ご健康とますますのご活躍をお祈りします。
 
 石村 洋
 
 8月15日(水)

 現在フルート・アンド・ギター・デュオの初アルバム「いとしのエリー〜Something like Jazz」のCDアルバム出版のための準備中です。録音と音源の最終編集が終わったところです。これから、著作権申請など色々面倒な手続きがあって、盤面プレス、印刷などがあって、最終的にCDのケース組み立てなどあってお届けできるものになります。サザンオールスターの事務所からは、アルバムタイトルの使用、タイトル曲の編曲の許可をいただいています。桑田さん原さんなど、サザンの皆さんも聴いてくれえたらうれしいなと思っています。

 ところで、この日はその次のアルバムのための録音の初日です。
 場所は、埼玉県三芳町のコピスみよしです。メンバーは平田さん、大滝君と3人。とても良い施設です。

 今度のフルート・アンド・ギター・デュオのCDはオリホトーンミュージックでも楽譜の出版を行っている富山詩耀さんのフルート・ギターのための作品集です。

 平田さんの都合でこの日の録音は、朝の9時から午後2時まででした。なんとか「想い:Longing」という変奏曲の録音を終えることができました。

 その後は、遅い昼休みを挟んでリサイタルの練習を兼ねて、夜の9時ごろまで色々曲目をいくつか録音してみました。

 そのなかで、「魔笛の主題による変奏曲」は私のソロアルバムに使おうかと思っています。まだ漠然としていますが、「椿姫幻想曲」「くるみ割り人形」「ルソーのむすんでひらいて変奏曲(カルカッシ)」なんかと一緒に古典的オペラ、バレーにかかわる親しめる作品集にしたいと思っています。
 7月17日頃

 心に思い描いていたプログラムはコンサート情報でお知らせした通りのプログラムだったのでしたが、中々ヴァイオリニストが決まりませんでした。その出演者が決まるまでは、プログラムも発表できなかったのですが、漸く、リサイタルに向けて本格的に動けます。

 モーツァルト ー グリーグの2台のピアノのためのソナタのグリーグパートをお願いした磯野鉄雄さんはギターファンで知らない人はほとんどいませんね。私も、古くからの知り合いですが、本当に素晴らしいギタリストだと思います。

 ベートーヴェンのスプリングソナタでヴァイオリンをお願いする小松美穂さんは、桐朋音楽大学出身のヴァイオリニストです。知人のかなり活躍している音楽家の方に推薦してもらいました。弦楽器では日本一と言われる桐朋出身の相当に優秀な人と聞いていますので、大変に楽しみです。

 
 back      topへ